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別れを告げるべき春

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このイントロが流れた瞬間に地下鉄のドアが開く。パスモをタッチする。階段の、最後の段に足を置く。地上への一歩を踏み出す。いつもより高いヒールを鳴らす。不意に振り向く。過ぎ行く車を捉える。信号が青に変わる。視線を上げる。その瞬間もう、わたしはわたしの物語のヒロインになっている。わたしだけの物語がその瞬間にはじまる。いつもあるはずの景色がパッと色づく瞬間を目にする。霞んだ空の色も、鮮やかすぎる広告も、わずらわしくて仕方ない人混みさえも、わたしの物語の世界には必要なんだと思う。

いつだって自分の物語のヒロインは自分であるはずなのに、雑踏に、苛立ちに、日常に小さく小さく傷つけられて蓄積してそんなことは忘れてしまっている。でもこのギターリフが鳴った瞬間、すべてを思い出す。わたしはわたしだ、わたしの物語を展開でき得るのは、わたしの物語を納得いくようにストーリーテリングできるのは、わたしだけなんだ。

曲のテンポに合わせていつもより早足で歩く。いつもは嫌で嫌で仕方ない新宿の人混みも、できるだけ長居したくない池袋も、お願いだから見つけないでと願う有楽町も銀座も、絶対そうだけど平常心を保てよ頼むからっていう中目黒も、毎回スニーカーで来れば良かったと後悔する上野も、フェリーに乗らなきゃたどり着けないあの真っ赤な鳥居も、川沿いに突然見える鉄柱も、きっと生まれ育ったあの場所も、あの日歩いた沖縄の砂浜も、まぶたの裏に浮かぶあの海岸線も、この曲さえあれば、どの場所もヒロインであるべき舞台になる。わたしはどこでもヒロインになれる。

愛さえあればよかったのだ、物語にも、ヒロインにも、あなたにも、わたしにも。

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なんてね。復活LOVEがすきすぎて下書きに入ってたのを年末なので消化しました。